胃・十二指腸潰瘍
胃潰瘍・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)
胃や十二指腸の粘膜に深い傷(潰瘍)ができた状態を「消化性潰瘍」と呼びます。
原因の大半はピロリ菌(H. pylori)と鎮痛薬・アスピリン(NSAIDs/LDA)です。
適切な内視鏡検査と薬物治療、そして原因への対処で治癒と再発予防を目指します。
まずはここだけ押さえればOK
- 原因の多くはピロリ菌とNSAIDs(鎮痛薬)・低用量アスピリン。
- 治療の軸はPPI/P-CABでの酸分泌抑制+原因対策(除菌・薬剤調整)。
- 潰瘍は原因を放置すると再発しやすい。原因の特定と除去が最重要。
- 黒色便・吐血・急な貧血・強い持続痛は緊急対応が必要なサインです。
- 胃潰瘍では胃がんとの鑑別のため生検が必要なことがあります。
疾患概要
- 胃や十二指腸の粘膜が深く傷ついた状態(粘膜下層以深の欠損)が「潰瘍」です。
- 胃液の攻撃因子(胃酸・ペプシン)と防御因子(粘液・血流・修復能)のバランスが崩れることで生じます。
- 原因を放置すると再発を繰り返しやすいため、原因の特定と治療が大切です。
消化性潰瘍全体はピロリ菌除菌の普及で減少傾向ですが、高齢化に伴うNSAIDs・低用量アスピリン服用者の増加により、薬剤性潰瘍は増えています。また、ピロリ菌にも薬剤にも原因が見つからない特発性潰瘍も近年増加しています(消化性潰瘍全体の約10〜12%)。
詳細を見る
比較的中高年に胃潰瘍、若い世代に十二指腸潰瘍が多い傾向があります。出血や穿孔(胃に穴があく)などの合併症を起こすと緊急対応が必要になります。適切な治療を受ければ多くの場合は治癒しますが、原因への対処なく放置すると高率に再発します。
原因・危険因子
- 主要因はピロリ菌(H. pylori)感染とNSAIDs(鎮痛薬)・低用量アスピリン(LDA)。
- 高齢・腎機能低下・抗凝固薬や抗血小板薬の多剤併用でリスクが上がります。
- ピロリ菌にもNSAIDsにも当てはまらない特発性潰瘍も存在します。
詳細を見る
- ピロリ菌感染:潰瘍形成と再発の主要因。除菌により再発率が大きく低下します。
- NSAIDs(ロキソプロフェン・イブプロフェンなど):胃粘膜を保護するプロスタグランジンを抑制し、潰瘍を起こします。「胃が痛くなければ大丈夫」とは言えず、無症状で出血することも。
- 低用量アスピリン(LDA):心臓・脳疾患の予防に使われますが、長期服用で潰瘍・出血リスクが上昇します。自己判断で中止すると心血管イベントのリスクが上がるため、必ず医師に相談を。
- その他の薬剤:ステロイド(NSAIDsとの併用で特にリスク上昇)、抗凝固薬、ビスホスホネートなど。
- 酸分泌過多・防御因子低下:粘液・血流・修復能の低下に喫煙・過度の飲酒・強いストレス・栄養不良が関与します。
- 特発性潰瘍:上記のいずれも当てはまらないケース。Zollinger-Ellison症候群・クローン病・好酸球性胃腸炎・消化管虚血なども鑑別が必要です。
主な症状
黒色便・吐血、急な貧血・ふらつき、強い持続痛(突然悪化する場合は穿孔の可能性)は緊急対応が必要な場合があります。すぐに受診してください。
詳細を見る
- NSAIDs服用中の潰瘍は無症状のまま出血して発見されることがあります。「痛くないから大丈夫」とは言えません。
- 黒色便(タール便)は上部消化管からの出血を示すサインです。下血とは異なり、消化された血液が黒くなります。
- 穿孔(胃に穴があく)の場合は突然の激しい腹痛で発症し、外科的な緊急処置が必要です。
- 狭窄(瘢痕による幽門部の閉塞)では嘔吐・食後の張り感が主症状となります。
検査・診断
- 診断の基本は胃カメラ(上部内視鏡)です。
- 胃潰瘍ではがん(悪性腫瘍)との鑑別のため生検が必要なことがあります。
- ピロリ菌感染の確認と除菌判定も合わせて行います。
血液検査や腹部画像だけでは潰瘍を見落とすことがあります。症状・薬歴・貧血の状況などをもとに、内視鏡検査の必要性を個別に判断します。
詳細を見る
胃カメラ(上部内視鏡)
- 潰瘍の有無・部位・深さ・ステージ(活動期〜瘢痕期)を評価
- 胃潰瘍は生検(組織検査)で悪性(がん)を除外することが重要
- 出血例では同時に内視鏡的止血(クリップ・凝固・注入)が可能
- 胃潰瘍は治癒後にも再評価の胃カメラを行い、瘢痕化を確認します
ピロリ菌の検査
- 内視鏡時に生検を使った迅速ウレアーゼ試験・培養・鏡検が可能
- 非侵襲的には尿素呼気試験(UBT)・便中抗原が正確(除菌判定にも使用)
- 血清抗体は現感染を必ずしも反映しないため、単独での判断に注意
- 除菌判定は治療終了から4週間以降に実施
※ 食事を摂っていない場合は当日の内視鏡が可能な場合があります。出血が疑われる場合は優先して対応します。
治療
- 治療の中心はPPI/P-CABによる酸分泌抑制。
- 原因があれば除菌(ピロリ菌)・薬剤調整(NSAIDs/LDA)を必ず行います。
- 出血・穿孔などの合併症がある場合は緊急対応が優先です。
詳細を見る
酸分泌抑制薬(PPI・P-CAB)
- PPI(プロトンポンプ阻害薬)またはP-CAB(ボノプラザン)が第一選択です。
- H2ブロッカー(H2RA)は長期使用で効果が減弱しやすく、第一選択はPPI/P-CABです。
- 治療期間は通常胃潰瘍8週間・十二指腸潰瘍6週間が目安ですが、潰瘍の状態により調整します。
- 粘膜保護薬・消化管運動改善薬の併用が必要な場合もあります。
原因への対処
- ピロリ菌陽性:除菌療法を実施。治療終了後1〜2か月で除菌判定を行います。
- NSAIDs服用中:可能なら中止が第一。中止できない場合はPPIを併用して潰瘍を治療します(P-CABも実地臨床では有効性が示されています)。
- 低用量アスピリン(LDA)服用中:心血管リスクがあるため自己中断しないことが重要。PPI/P-CABを必ず併用します。
- 喫煙・過度の飲酒・強いストレス・不規則な食生活も潰瘍治癒を妨げます。
出血例への対応
- 原則内視鏡的止血(クリップ・高周波凝固・局所注入)が第一選択。
- 止血前後に大量の酸分泌抑制薬(PPI/P-CAB)で再出血を予防します。
- 抗凝固薬・抗血小板薬の休薬・再開は、血栓リスクと出血リスクを個別に評価して決定します。自己中断は危険です。
- 内視鏡止血が困難な場合はIVR(血管内治療)や外科手術を連携病院と相談します。
NSAIDs・LDA服用者の潰瘍予防
- 潰瘍既往のある方がNSAIDsを使う場合:PPIによる予防が第一選択(ガイドライン推奨)。
- 潰瘍既往のない方でも、高齢・多剤併用・重篤な合併症がある場合はPPIによる予防を提案します。
- LDA服用者の潰瘍既往がある場合:PPI/P-CABとの併用が推奨されます。
- NSAIDs開始前にピロリ菌陽性が判明した場合は、除菌が潰瘍予防として推奨されます。
※ 潰瘍既往のない患者への一次予防については保険適用外の場合があります。
再発予防
- 最大の再発予防は除菌成功の確認(除菌判定を必ず実施)。
- NSAIDs/LDAの継続が必要な場合はPPI/P-CABによる維持療法が重要です。
- 生活習慣の見直し(禁煙・節酒・規則正しい食事)も再発リスクを下げます。
詳細を見る
- 除菌成功により、ピロリ菌関連潰瘍の再発率は大きく低下します(未治療と比べて数倍〜十数倍の差)。除菌判定の確認が必須です。
- NSAIDs/LDA継続中の方は自己中断せず、処方医・当院と連携しながら最適な予防策を続けましょう。
- 市販の鎮痛薬も含め、潰瘍リスクがある薬剤は事前にご相談ください。
- 禁煙は潰瘍治癒を促進し、再発率を下げます。
- 胃潰瘍では治癒確認の胃カメラも再発発見の機会になります。定期受診を続けましょう。
当院の紹介体制
- 出血・穿孔・狭窄などの合併症例は地域の連携病院へ迅速に紹介します。
- 内視鏡画像・検査データ・紹介状を速やかに共有し、スムーズな連携を目指します。
- 専門病院での治療後の再発予防と生活支援は当院で継続フォローします。
詳細を見る
- 内視鏡的止血が困難な出血例・穿孔例・内科的治療が不応な狭窄例などは連携病院へご紹介します。
- 外科手術・IVR(血管内治療)・入院管理が必要と判断された場合も速やかに対応します。
- 紹介後も定期的に情報共有を行い、再発予防・ピロリ菌除菌後管理・薬剤調整は当院で担います。
よくあるご質問
市販の痛み止めを飲んでいますが潰瘍になりますか?
NSAIDs(ロキソプロフェン・イブプロフェンなど)は胃粘膜を傷つける可能性があります。症状がなくても潰瘍や出血が起きることがあります。必要性が高い薬は自己中断せず、胃粘膜保護(PPI/P-CABなどの併用)や代替薬について処方医とご相談ください。市販薬の場合も受診時にお伝えください。
低用量アスピリンをやめてもいいですか?
アスピリンは心臓・脳疾患の予防に使われており、自己中断すると心血管イベント(心筋梗塞・脳梗塞)のリスクが上昇する可能性があります。潰瘍が見つかった場合も、原則として中断せずにPPI/P-CABとの併用で対処します。中止が必要かどうかは処方医と相談の上で判断します。
除菌したら潰瘍は再発しませんか?
除菌が成功すると、ピロリ菌による潰瘍の再発率は大きく下がります。ただしNSAIDs服用・喫煙・ストレスなど他のリスク要因が残る場合は再発することがあります。除菌後も生活習慣の改善と定期受診を続けることが大切です。
胃潰瘍とがんはどうやって区別するのですか?
外見だけでは区別が難しいことがあるため、胃潰瘍では胃カメラで生検(組織の一部を採取して顕微鏡で調べる)を行います。また治療後に再度胃カメラで治癒の確認と、必要に応じて再生検を行います。「治っているから大丈夫」と経過観察を省略しないことが重要です。
内視鏡は痛くないですか?当日できますか?
鎮静薬(眠くなる薬)を使って苦痛を軽減できます。準備が整えば食事を摂っていない状態であれば当日の検査が可能なこともあります(出血が疑われる場合は優先して対応します)。事前に予約が必要な場合もありますので、お電話でご相談ください。
抗凝固薬(ワーファリン・DOACなど)を飲んでいますが、出血が心配です。
抗凝固薬・抗血小板薬の服用中は潰瘍出血のリスクが上がります。黒色便・吐血・急な貧血があれば速やかに受診してください。出血時の休薬・再開のタイミングは血栓リスクと個別に判断します。自己中断は危険です。定期的な内視鏡でのモニタリングも大切です。
潰瘍が治ったら薬はやめられますか?
ピロリ菌除菌が成功し、NSAIDsなどの原因薬剤も中止できた場合は、潰瘍治癒後に酸分泌抑制薬を終了することが多いです。ただしNSAIDsやアスピリンを継続する場合・再発リスクが高い場合・特発性潰瘍の場合は維持療法(PPI/P-CABの継続)を検討します。薬をやめるタイミングは診察時にご相談ください。
症状がないのに潰瘍と言われました。なぜですか?
NSAIDs服用中の潰瘍は無症状のまま進行し、気づかないうちに出血していることがあります。健診の胃カメラや貧血の精査で偶然発見されるケースも少なくありません。症状がなくても治療が必要な状態であることを理解していただき、きちんと治療を受けましょう。
